足あと





風邪がぶり返してしまった.
私は普段,風邪はほとんど引かないが,一度引くと長引く.
数年ぶりで引いた今回の風邪もやはりなかなか治らない・・・

熱が上がり,うつらうつらする中で,たくさんの夢を見た.
どれもいやな夢だった.

父の浮気,
サラ金からの催促の電話,
もう喧嘩さえしない,両親,
食べることさえままならない,
荒れ切った家,
たえず冷たく張り詰めた空気,

お金がない,
愛がない,
居場所がない,

どこにも居場所がない.

中学では,みんな閉鎖的なグループを作っていた.
そこで目立つことは許されない.

友達とも言えない仲間の中で,まるで大きな魚に食べられるのを恐れて群れる小魚のように,
私は息をひそめて,目立たないように,グループの中にいた・・・

何故,人の悪口を言うのだろう?
何故グループで行動しなければならないのだろう?
何故,他の人と違っていてはいけないのだろう?

理解できない.
が,そこからひとり飛び出す勇気もない.
次第に口を閉ざし,自分を殺して相手が望むように行動するようになった.

私はどこにもいない.

どこに行っても息苦しい・・・



その頃の悪夢を断片的に見て,うなされる自分の声で目が覚める.
それを繰り返して,夜が明けた.


あの頃の私はまだ子どもで,本当にまだ子どもで,
極度に孤独を恐れていた.
いつも,独りで,しかしその胸に刺さる孤独を認めたくなかった.
自分は誰にも両親にさえ,愛されていない,と感じて,
しかしそれを感じないように生きるしかなかった.
だから必死に,私にとって真実とは思えないものにでも,しがみついていた.
それしか方法がなかった.

今思い返しても,本当によく生き延びたなと思う.
今生きているのが不思議だ.
何度でも,ここから去るチャンスがあったのだから.


しかし,あまりに昔のことすぎて,もうとっくに解決済みだと思っていたことで,
自分でも今更こんな夢を見たことが驚きだ.

きっと,過去の自分の意識を整理をしたのだろう.
PLIを受ける前の準備として.


目が覚めてしまったので,恵子さんおすすめの『賢者のプレゼント』を読み始めた.

すると,ある引用が目にとまり,私は夜明けの薄明の中,声をあげて泣いた.


ある日 男は夢を見た
浜辺を神と共に歩いている夢を
海の向こうの大空に
男の今までの人生の光景が
はっきりと映しだされ
どの光景の前にも浜辺を歩いている
神と男の二組の足あとがあった

最後の光景まできたとき
ふり返って見ると ところどころ
足あとがひとつしかないことに男は気づいた
そしてそれはいつも彼が境に落ちて
悲しみに打ちひしがれている時だった

男は敢えて神に尋ねた
「いつもそばにいると
約束されたのに
どうしてわたしを見放されたのですか」

神は答えて言った
「わたしの大切ないとしい子よ
わたしは決しておまえのそばを
離れたことはない
あの一つの足あと
それは
苦しみや悲しみに傷ついたおまえを
そっと抱きあげ 歩いた
私の足あとなのだ」と

「足あと」マーガレット・フィッシュバック・パワーズ





                                      2008.2.26 ハル




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